そのいち・雨でも変わんない三人の集結? アルル「無意味に壮大だなぁ・・・」
「レイン・レイン・レインデイ♪ レイン・レイン・レインデイ♪」
その超適当な歌は、シンプルな青い傘から漏れてきていた。
くるくると回っているその傘の持ち主は、金無垢の目をしていた。亜麻色の髪をちょこんとくくっている。
白いシャツに左肩と胸だけを覆う青いプロテクター、同じく青色のミニスカート。
左肩のプロテクターの上には黄色い小動物が乗っている。
御存知、アルル・ナジャ ・・・+カーバンクル。
雨の降る中を、二人は歩いていた。・・・歩いているのはアルルだけかも知れないが。
ちなみに、アルルの歌っていたのは、作詞作曲歌共にアルル・ナジャ。一部カーバンクル。
「レイン・レイン・レインディ♪」
「ぐっ♪」
「ひどい歌だな・・・・」
「今日ばっかりはこのヘンタイに賛成だわっ!」
適当すぎる歌に批判する者が二人。
一人は、銀髪と碧眼の持ち主。白い簡易な(?)ローブを着ていた。
青いバンダナもつけている。腰にはいつものとおり剣を佩いている。シェゾ・ウィグィィである。
一人は、水晶色の長い髪とエメラルドの眼をしていた。
水晶色の露出度の高いドレスを着ている。首には紅い宝石のアクセサリー。
ルルーだった。いつもと変わらない姿に、傘がプラスされている。傘の柄は・・・想像に任せよう。
おしゃれな花柄だろうと、水玉だろうと、ハートだろうと、『愛しのサタン様』柄だろうと構わない。
「おい・・・なんでそこでヘンタイが出てくるんだよ?」
シェゾが言う。当然、額に縦皺二本ほど+。・・・当然、老けたという意味合いではない。
「あーら・・・ヘンタイだからヘンタイって言ってんじゃない」
皮肉口調。これまた当然ではあるが。
「俺はヘンタイじゃねぇっ!」
また当然の返事。彼がヘンタイと思われているのはただ単に言葉不足なだけである。
確かに、いきなり「お前(の魔力)がほしい」と言われたら、誰でもヘンタイだと思うだろうが。
「へぇー?自覚症状なかったの・・・大変ねぇ・・・」
「なんで『元々ない』物に自覚症状ないといけねーんだよっ!」
アルルはボーっと見ている。こんな口喧嘩、毎度毎度の事。そして、いつもルルーが優勢、シェゾが劣勢。
それは今日も変わっていない。シェゾもまだルルーの口撃こうげきに詰まってはいない。
だが、起こっているシェゾに冷静(?)なルルー。結果もどうやらいつもどおりになりそうである。
・・・晴れであろうと雨であろうと変わりない奴らである。
おそらく雪が降ろうとかんかん照りだろうと突風だろうと変わりそうにない人たちだ。
でも、いつものそれを聞くのすら飽きてきた。傘があるとは言え、濡れてしまいそうだし。
レフェリーストップ(・・・というか助け舟か?)で、とにかく終了させることにした。
「そーだ。二人はなんでこんなところにいんの?」
その一言で二人の喧嘩が止まる。
「私はサタンさまのところへ行くのよ。」
そういった後、ルルーは「雨の日はやはりサタンさまが恋しいわ・・・あぁサタンさま・・・」
などといつもの自己陶酔ブリッコを披露し始めた。シェゾは軽く舌打ちしている。
「シェゾは?」
アルルがそう聞くとシェゾはちょっと苦い顔。
「俺もサタンの所だ。依頼終了の報告と、報酬を貰いにな」
「へ?」
アルルがちょっと疑いの目になる。
「シェゾって、仕事してたの?」
「はぁ?」
Q.シェゾの今の心境を十五文字以内で述べよ。
A .一体コイツは何を言い出すんだろう・・・
正解だけど文字数オーバー、不正解って所である。
「シェゾが仕事してんのって、なーんか信じれない感じだし・・・」
アルル、ジト眼。
「少なくとも、お前よりは自分で食ってますよ・・・」
シェゾもジト眼。ていうか、アルル(+カーバンクル)の生活費(とくにカーバンクルの食費)が
どこから来るか不明である。
シェゾは魔導師(?)をしているし、ルルーは貴族(? ?)なので平気だが。
・・・ でも、それ以外の人も謎。
そんなところで、ルルーの自己陶酔ブリッコの効果時間(?)が切れる。
「ところでアルル、アンタは?」
「え、ボク?」
ルルー、シェゾがどこへ行くかは気にも留めてないらしい。
それとも自己陶酔中でも聞こえていたのだろうが。
「ボクもサタンのところだよ。こんな雨じゃあ外で遊べないからね」
これを平気で言うところが、子供っぽい。魔導師への夢はどうしたのか。
「んじゃあ全員サタンの塔行きってワケか」
シェゾがぐったりした顔で言う。
ここからサタンの塔へ行くのは、一本道だけである。当然、全員同じルートで行かないといけない。
「出発進行っ♪」
なんでかアルルが仕切る。しかも(子供っぽい)電車風である。
魔導世界に電車があるかは不明だが。
真・魔導の神器『ひも』から見てありそうだけれども。 アルルが『幼い頃遊んだように』(など)と言っていたし。
それでも、ルルーは(何故か)再び自己陶酔ブリッコしてついてきてるし、
シェゾにはどちらか・もしくは両方にツッコむ気力はないようだった。
そのに・魔女っ子の雨の日大冒険 シェゾ「・・・大冒険なのか?それ以前に冒険か?」
「おいっす」
雨の中、そういって右手をシュタッと挙げる金髪少女が一人。シェゾと同じく碧眼。
「あ、ウィッチ。おはよ」
アルルがウィッチと呼んだ少女は、シンプルな黒ローブ(それも短い)にほうきを持っていた。+かさ。
これでもかって感じの魔女ルックである。
・・・魔女なのだが。
ウィッチは右手をシュタッと挙げて言う。
彼女は傘とほうきを持ってそれで右手が開いている。何故かは想像におまかせ。
傘が浮いてよーと、ほうきが浮いていよーと、両方が浮いてよーと、手が三本あろーと構わない。
・・・いや、最後はさすがに構うか?
「おいっす!」
それを聞き、理解したアルル。
「おいっすぅっ!」
アルルもウィッチと同じように右手をシュタッと挙げて返した。
「ぐうぅっ!」
カーバンクル君、以下同文。
「とてもよい元気なお返事ですわっ!ほら、ルルーさんとシェゾさんも!」
「はぁっ!?」
「じゃないと『だ〜めだこりゃ!』となってしまいますわ!」
驚いたのはシェゾではなくルルー。
呆れていたらしいシェゾも、ウィッチの台詞を聞いて「おいっす」と素直にやっている。
・・・この人は、それをしないと先に進めないとでも思ったのだろうか。
アルルのと比べると小さくて短い『おいっす』だが、ウィッチは認めたらしい。
「ほら、おいっす!」
「なんで私がそんなこと・・・」
「だ〜めだこりゃ!になってもよいんですの!?」
珍しく最強の口撃こうげきの持ち主ルルー様(様が重要)が詰まっている。
負けず嫌い(つまり『だめだこりゃ』になりたくない)か何かと、
プライド(『おいっす』なんて言いたくない)か何かが激しく空しくせめぎ合いをしているようだ。
何か異様に虚しいその戦いは・・・負けず嫌いの勝ち・・・と、思われる。
「お・・・おいっす・・・」
「声が小さい元気がないっ!もう一度『おいっすっ!』」
シェゾのは全然気にしなかったのに、なぜルルーの『おいっす』をそこまで気にするか不明である。
「おいっす・・・」
「うーん、もうちょい。『おいっす!』
「お・・・おいーっすっ!」
やけになって声を張り上げるルルー。それを見てシェゾは爆笑中。
アルルはというと・・・どっかに行こうとするカーバンクルを止めるのに必死。他の人なんか見ちゃいない。
「ところで、三人おそろいでどこに行きますの?」
「サタンさまの塔よ」
これ以上ないってほどにトゲを含んだルルーの声。おいっすを三回も言わされたら当然だが。
「ウィッチは?」
やっとこさカーバンクルを捕まえたアルルが言う。
「私は、雨の日にだけ咲くという希少な薬草を探してますの。めぼしはもうついてますけどね」
「へー・・・どんな薬草?」
シェゾもルルーもとっとと行きたがってるのに聞きまくるアルル。その手の中でカーバンクルが暴れている。
・・・ってか、なんでルルーもシェゾもアルルおいてとっとと先に行かないのか・・・
「形はスノードロップのようで、色は青か水色ですの。とてもいい香りがしますのよ。
では、雨が止まないうちに失礼いたしますわ」
なんだか無理に切り上げてウィッチは通り過ぎ、去っていった。
しかし・・・どう見ても、雨はしばらく止みそうにない。自分たちもサタンの塔へ歩きながら、アルルが聞く。
「ねぇ、シェゾ。ウィッチの言ってた薬草の効果わかる?」
シェゾのほうが、魔法薬や薬草については詳しい。アルルが何にも知らないだけかもしれないのだが。
「特徴だけで薬草の名前言わんかったから違うかもしれんが・・・多分、食欲をおさえる薬草だ。」
「そんなの何に使うの?」
と、これはルルー。
この人は魔法を使いたいとは思っていても、魔法薬などの方面には全く知識がない。
魔法の方も、ほとんど知識がないが。
「女性がダイエットに使う事が多い」
シェゾがそれだけを言う。ところで、魔導世界に太った女性はいるのだろうか。
「ふーん・・・今度、エキス貰おうかな?」
「あ? そうじゃな・・・」
「ぐーっ!」
アルルの手から逃げ出したカーバンクル。
「か、カーくん!」
カーバンクルが数秒で走り去る。ちょうど進行方向の逆、ウィッチが言った方向だ。
ちなみに・・・めっちゃくちゃ早い。
あのちっさい体で普通の人より早い。黄金の足である。実際に黄色い色しているし。
それを反射的に追うアルルたち。『たち』である。何故ルルーやシェゾまで追っかけてるのかは謎。
そのうち・・・ウィッチが立ちつくしているのが見えた。
「ウィッチ!カーくん見なかった!?」
ウィッチがくるりと振り向く。・・・恨みがましい眼。
「あれを見てくださいな」
ウィッチの指さす方向を見ると、確かにカーバンクルがいた。
「せっかくレインドロップのエキスを調べようと思いましたのに!どーしてくれるんですのアルルさん!」
そーやら、カーバンクルがレインドロップを食べたらしい。
確かに、ウィッチの話ではいい香りがしていたらしいし。
「・・・アルル、さっきの続きだがな。」
思いっきしあきれた顔のシェゾが言う。
「レインドロップはエキスにするんじゃなくて、少量を粉末にして飲むんだ。
昔はレインドロップの一部をそのまま飲み込んでたらしいがな」
「そうなんだ・・・って」
アルルが視線をカーバンクルからシェゾに移す。
「んじゃ、カーくんは・・・」
「丸ごと何本か食べたんだろ?体もちっこいし、食欲を抑えすぎて食べ物を受け付けなくなるんじゃないか?」
「そんなぁっ!」
アルルが悲鳴を上げる。
「でも、カーバンクルは元から食欲があるぶん平気じゃないの?
それより、多すぎる食費が減っていいんじゃない?」
ルルーが酷いがごもっともな事を言う。そんな中、カーバンクルの一声。
「ぐーーーーーっ!」
ぴょーんと飛び上がり、舌をいっぱいに伸ばす。
ぺろぱくぺろぱくぺろぱくぺろぱく・・・
そのあたりの草を食べまくるカーバンクル。・・・黄金の舌。赤いが。
「・・・食べ物を受け付けなくなるんじゃないの?」
呆然とルルーが言う。アルルなんか魂がどっか行っている。
「に、人間が摂取した場合の効果だからな・・・」
シェゾすら半分放心している。そんな中、カーバンクルは食べ続ける。
完全に放心中のアルルに向かって、ウィッチが叫ぶ。
「キーーッ!もうよいですわっ!お詫びは又の機会にしてもらいますわよっ!」
そう言い捨て、ウィッチはほうきに飛び乗り去っていった。
箒が雨で濡れて飛べなくなる・・・なんてことはないんだろうか。
カーバンクルはお腹をボール状にして(比喩ではない)寝ている。
本気でお腹と鼻提灯の大きさがほぼ同じである。
アルルはカーバンクルを(お腹を持って)拾い上げ、左肩に乗せた。
濡れているが、タオルを持ってるわけでもないので仕方が無い。
「んじゃ、いこっか」
まるで何事も無かったかのように言うアルル。
「アルル、アンタ・・・」
「ん?」
まるで何事も無かったかのように進むアルルを、ルルーが止めた。
「そっち、反対方向よ・・・」
「あり?」
アルルが向かっていた方向は、サタンの塔とはまるっきり逆方向だった・・・
そのさん・水もしたたるいじめられっこ? ルルー「なんなのよ、このわけわかんないタイトル・・・」
進行方向に、一つの影が見えた。雨でよく見えないが、少なくとも人間のシルエットではない。
・・・別に、おかしくもなんともないが。今の時代、魔物と人間が共存しあって当たり前である。
その影は晴天の湖のような水色の髪に、同じ色の尾を持っていた。
うろこさかなびと族のセリリだ。アルルたちとは逆の方向を向いていて、表情は見る事が出来ない。
「セリリッ」
アルルが声をかける。ちなみに、シェゾとルルーは呆れている。
アルルは元々暇潰しにサタンの塔に行くからいいのだが、それに付き合わされる方は最悪である。
「あ・・・アルルさん。それにルルーさんとシェゾさんも」
こちらを向いた白い頬が緩み、喜びの感情を示す。
「セリリ、どーしたの?雨なのに傘も差さないで」
その言葉のとおり、セリリは傘を持ってなかった。ずぶぬれの髪が肌に張り付いている。
「え?あ、私は周りに水があったほうがいいですし。今日も、雨だから散歩しに来たんです」
ここは湖や川といった場所ではなく、ただの街道。セリリは『空中を』泳ぐ事が出来るのだ。
しかし、うろこさかなびと・・・つまり人魚には変わらない。やはり、周りに水があったほうがいい。
・・・だが、セリリは晴れでも平気で活動していた気がするが。・・・吹雪でも。
「でも・・・シェゾさんも傘差してませんけど?」
何故か一瞬間があって、全員の視線がシェゾに集まる。カーバンクルすらシェゾを見ている。
「そーいや、君はなんで傘差してないの?」
「決まってんじゃない、アルル。ヘンタイだからよ」
「なんでそこでヘンタイが出てくるんだっ!・・・アルル、なんで俺が傘差してないか答えてみろ」
何故かアルルに振るシェゾ。それに「ほへ?」と返したアルルはかなりマヌケだった。
「なんでアルルに振るわけ? ・・・あぁ、ヘンタイだからか」
「お前の脳の神経はどうつながってんだっ!」
このやり取りを聞かずに考えてたアルルが顔を上げた。
「多分・・・『水もしたたるいい男』とやらを気取ってるから?」
アルルの頭に(グーで)一撃が入った。
「いったぁーいっ!」
「お前は今のやり取りを聞いてなかったのか!? 防水魔法を施してるに決まってんだろ!」
本当に聞いてなかったアルルに対し逆ギレするシェゾ。
「シェゾさん、防水の魔法ってアルルさんが知らないほど難しい魔法なんですか?」
「いや、『超基本』だ」
言い切るシェゾ。実は『シェゾにとっての』超基本だったりするのだが、
それを理解できるほどのレベルに達した者はここにはいない。
「しぇ〜ぞ〜、君もそんなにはっきり言わなくていいじゃんか〜。
このバカ、意地悪、ドヘンタイーッ」
当然の様に(実際当然だが)二発目が。シェゾも案外短気だ。
「あ・・・アルルさん、大丈夫ですか?」
「いったぁーいっ」
幾らいろんな意味で人間離れ(?)しているアルルでも、痛いもんは痛いらしい。
しかし、前よりは痛くなさそうである。(!があるか無いかの差で)
「ふざける限度をすぎるから悪いんだ」
その限度やらがあるとしたら、アルルは50歩ぐらい前に近寄っただけな気がする。
・・・0が一つ余分かもしれないが。
「あ・・・小降りになってきましたね」
セリリが不意に口を開いた。シェゾにつかみかかっていた(?)アルルも「え?」って顔で上を見上げた。
確かに、小降りになっている。
「雨が上がらないうちに、私帰ります。それじゃ・・・」
「あ・・・またね」
アルルが小さく手を振る。
「・・・」
セリリの影が消えた。
それを完全に確認してから、アルルはシェゾにグーを三発ほど見舞ったそうだ。
次の話へ 記念館へ