この話は、一人の魔導師の卵アルル・ナジャの家から始まる。
初夏というには遅いがまだ夏真っ盛りではない、七月の初めの物語。
カーくんがセミと合唱してる。おまけにぷよ付き。 そんなにアピールしなくても、どうせ暑いですよぅ。 どうせ暑いのに何の対処方法も持たない魔導師の卵ですよぅっ!
ボク、極悪非道のぷよ(+アルファ)殺戮家になっちゃおうかな・・・ だって、暑い中あんな暑苦しい合唱してるんだもん。 凍らせて部屋の中に入れてたら涼しそうだよね。でも不気味だなぁ。
ファイヤー放ってもっと暑くしてやろうかな。 でもそうするとボクまで暑くなっちゃうよね。
そうだ、みんなの目の前で涼しそうにしててやろ。 ボクだって練習すれば氷の魔法の調節ぐらいできる! ・・・と思う。 とりあえずボクの服で練習だ。
アルルは立ち上がり、タンスの中から今着てるのと同じ服を取り出す。
服が見事に凍りつく。
むっかー! カーくん、ボクを馬鹿にしたなーっ!? いいもん、ぜぇッたい覚えてやるんだからね!
服は腹部にあたる部分のみが凍りついた。 その他の部分は冷たくはなっていない。
だーっ、ぷよまでボクを馬鹿にするぅっ!
・・・セミまで。あぁそうですか。
爆音と共に、セミたちが飛んでいく。
ふんっ、ボクの練習をからかった罰だよ! まったく、ボクはがんばって魔法の練習してんのに。 もうっ、むしゃくしゃするなぁ、町にでも行こうっと!
|
アルルは皆のいる町に着いた。 見知った者も大勢いる。 その中で、ウィッチが深刻な顔で周囲と何か話していた。
ウィッチはため息をつく。
どうしちゃったんだろウィッチ・・・元気ないなぁ・・・
ドラコが口を挟む。
説明は更にチコにバトンタッチする。
皆は『そういえば・・・』と言う顔でウィッチの方向を向く。
適当にやったらしい。
セリリはたらいを引きずっている状態だ。 飛んで引きずって、浸かってはまた飛んで引きずって・・・を繰り返している。
ウィッチ、また聞くなんてよっぽど残念だったのかなぁ・・・
アルルに聞いたのと同じ問いをセリリにしているのを見て、アルルたちはその二人を置いていった。
|
あれ? アメの包み紙が落ちてる・・・誰だよこんなとこにゴミ捨てるの。
アルルは包み紙を拾う。
ドラコは自分の手にある使い捨てカレー皿を見ていた。
どうしたんだろ・・・? ドラコの言うとおり、この町ってほとんどゴミ無いのに。 確かに、ゴミ箱の中にあったりはするけど。 今日はなんでこんなにゴミが・・・? はっ、もしかしてカーくんたちがヤケ食いして食い散らかしてんの!? ・・・そうだったら、カーくんをサタンに返しに行こう。
|
アルルは帰路に着いていた。
今の時間は二時半ぐらい・・・かな? 帰っておやつでも食べよっと。 しっかし、暑いなぁ・・・ いっちばん暑くなる時間帯だしね・・・あつぃ。
・・・!?
道の真ん中に、キキーモラが倒れていた。
こめかみに水滴を浮かばせたキキーモラから、返事は無い。
大変だ・・・! 急いで手当てしなきゃ! ボクの家へ運んでから、かなぁ!?
アルルは肩にキキーモラを背負い、なんとか走り出した。 その先で、ルルーが歩いていた。
キキーモラをルルーに任せて、アルルはダイアキュートを練り上げた。
|
再び吹っ飛んでったセミたち。
起き上がるキキーモラ。
どうしたんだろ? 急にガタガタ震えちゃって・・・ はっ、まさか・・・!
だあぁああ! 大当たりだよーぅ。 ・・・ていうかキキちゃんも、真面目なのか暇なのか・・・
キキーモラは立ち上がったが、また腹部周辺を押さえしゃがみこむ。
完璧にばたんきゅーしていた。
シリアスに水をさした合奏に、アルルとルルーは容赦などしなかった。 またセミが飛んでいく。
|
アルルたちは頭をひねり続けていた。
冷夏、霊化、零下、麗華、霊歌、隷下、麗香・・・ ボケの心当たりはあるけど、冷夏の心当たりは無いなぁ・・・
アルルが首をかしげる。
確かに・・・サタンのせいだけど、もう太陽はなおっちゃったしね。 余波が静まるのを待てってこと? 暑さ対策は個人で? ・・・いや、夏が暑いのは当然。 だから梅雨の対策かな?
ルルーのため息が、アルルに嫌な予感をうかばせる。
ほぇ・・・ ガビーンッ! 予言、大当たり・・・
|
誰もいない部屋で、アルルの服の上部が見事に凍りついた。
アルルは聞こえたセミの声の方向に魔導を放った。
全部凍りついた服に、熱湯をかけて溶かした。
とりあえず、はやく魔導力を回復させたい。 自然の精霊さんに頼みますか・・・。 ボクのお家の庭の精霊よ、取り込まれる準備にかかれーぃ! ・・・なっ・・・! 庭がズタボロのめちゃくちゃのぐっちょぐちょになってる!? だだだ、誰がこんな事を・・・!?
犯人はアルル(と、ルルー)。セミをふっとばしまくった結果だ。
良過ぎるタイミングのルルーの登場で、アルルはコロリとその事を忘れた。
ルルーはふと、わざわざ擬音を口にする事の無意味さを感じた気がした。
酔っ払いは恐ろしい。親父も恐ろしいから、親父臭い奴も恐ろしいのだろう。
音程とリズムが取れていない歌を聞いて、ルルーは練習再開はかなり後だと判断した。
|
やったよ! やったよボク! セミ達の妨害にも負けず、めげず、やりましたーっ! やりとげたよバンザーイッ!
アルルの服(のスペア)は凍りつくことなく、柔らかいまま心地好い冷気を放っていた。
アルルもルルーも忘れていたが、アルルは一回しか成功していない。 当然、コツなどまだつかんでいないのだ。 それに酒など入ったら、どうなるか。
|
キキーモラが目覚めて数秒後、嫌な予感とでも言うものを感じ取った。
起き上がったキキーモラだが、すぐにまた寝る形になる。 疲れが相当たまってるか、ただ単に寝すぎたのか。 そこにアルルとルルーが入ってきた。
キキーモラを家に運んでから、大体一日が経っていた。 二人を見て『嫌な予感』がおさまったのがキキーモラの不幸。
アルルの詠唱を聞いて、キキーモラは嫌な予感第二派を感じた。
その魔導は角度を変えてその合唱団の方に飛んでいった。 合唱団も飛んでいった。 「ごめん、も一回やるから」と言って詠唱に入るアルルに、危険信号第三派を出す。
キキーモラの信号は赤を通り越して壊れ、嫌な予感は最頂点をぶっちぎった。 ・・・ずどどどどど・・・!
キキーモラはぷよにつぶされてばたんきゅー。
ルルーは脱兎のごとく逃げ出した。
|
次の日。
なんでこんなことになったんだっけ? まずキキちゃん介抱して、暑そうだったから氷の魔法覚えて、 かけようと思ったら間違えてオワニモ使って、怪我させて、 責任取らされて・・・それで町の掃除。 何!? 最後の『責任 → 町の掃除』って!
『掃除しないと町が汚れてしまう』というキキーモラの要望で、 アルルは町の掃除をする羽目になった。 おととい大量にゴミを見つけたのもキキーモラが掃除してなかったからだった。
なんでこーなるのー!? こんな終わり方アリ!? 納得いかなーいっ!
|
アルルが納得いかないらしいので、後日談を話すことにしよう。 ウィッチの話によると結局梅雨はその二日後に明けたらしい。 雨が降らないままで。 それから一週間でキキーモラの怪我は完治した。 アルルがヒーリングなどをかけまくっていた甲斐があったらしい。 当然キキーモラは町の掃除を再開した。
雨が降ってきた。
その雨は(梅雨でもないのに)三日降り続いた。 キキーモラは雨でも楽しんで掃除していたが・・・
えぇーん、かんかん照り太陽の真下を頑張って掃除した ボクの立場はいったいどーなんの!? この終わり方ももっと納得いかなぁーい!
|