「うわぁー・・・」
ボクは思いっきり声を上げた。
洞窟を探検していたアルル・ナジャ、つまりボク。
光の差し込むほうに進んでたら、洞窟から抜けれたんだ。
ちょっと魔導力がきつくなってたんだよね。でも、ここなら魔導力の心配も要らない。
だって、そこはいかにも精霊さんがいっぱいいそうなきっれーな花畑!
確かに、目的とはちょこっと違う? んだけど。
ま、元々明確な目的なんか無かったしね。
手入れされてるわけでもないし、野草が生えてるだけ。
そっれでも、めっちゃくちゃキレイだったんだから!
そんな花畑にポケラーッとしてしまったボクの肩を、カーくんが降りていって・・・
「ぐう!」
お花の中にもぐってしまったんだよね。
「ちょ、カーくん!迷子にでもなったらどーすんのっ!」
がさがさ花が動いているところを追ってった。
「ぐ!」
お花から飛び出して、舌を伸ばす。
その舌は・・・蝶とたわむれてたんだよ。
・・・信じられる?
「だあああぁ・・・」
カーくん、君は蝶を捕まえたかっただけなのね・・・。
ルルーがいたらすぐさまキレるところだよ。「この軟体生物!」ってさ。
「こんにちは」
「?」
確か、そんな事を考えてたんだよね。
一人呆れ果てているボクに声がかかった。
どこぞの王子様か騎士さんみたいに青くて立派な服を、黒いマントで包んでる。
灰色(銀髪・・・じゃないよね?)のキレイな髪に、真っ黒い角。
額をバンダナ・・・じゃないや、黄色い紐でしばってる。
赤やオレンジといった感じの色の眼。
そんな、カッコいいお兄さん。
・・・が、花畑に座ってた。
しかも手になんかピンクの花持ってたしぃ・・・
「こんな所で、一体何をしているんです?」
おにーさんが聞く。
「べ、別に何をしてるってワケじゃないんだけど・・・
ただ、迷い込んじゃって・・・」
しどろもどろに答えるボクの顔は、たぶんまっかっかだったと思う・・・
「大丈夫ですか?
なんなら、街道まで送って差し上げても・・・」
「それは大丈夫。どっから迷い込んだか覚えてるから」
親切なその人の言葉を、ボクは断った。
・・・でも、迷い込んだ場所を覚えてるのって、迷ったことになるの?
れーぎ正しーその人は・・・
どー見ても男性で、しかも年上なのに、敬語。
デウスも似たよーな感じだったけど。
とにかく、ボクのハリが360度ずれちゃうような人だったわけ。
・・・あ、360度狂っても結局同じか。180度だね、180度。
「そっちこそ何してんの?」
ボクはそう聞き返した。
だって・・・『男性』で『年上』で『礼儀正し』くて『魔族』で、
おまけに『かっこよく』て『背も高い』人が、座り込んでお花摘んでるんだよ?
想像してみてよ。
笑えるってわけじゃないけど・・・そのぉ、とにかく、ちょっと変じゃない?
普通、ここは『女性』で『年上』で『礼儀正し』くて『人間』で、
おまけに『美人』で『背も高い』人・・・とかをイメージするでしょ?
別に魔族でもいーんだけどさ。あ、あとちっちゃい女の子とか。
「お花を摘んでるんですよ」
・・・いや、見りゃ分かるよ、それぐらい。
「それ、何の花なの?」
・・・いや、本当は『なんで君みたいな人がこんな事してんの?』って聞きたいんだけど、
それはいくらなんでも失礼ってもんでしょ?
そーだよねぇ。失礼だよ、ブショク(ってなんだっけ?)だよ。
それに、それをそのまま言うとなぁんか『まぬけ』っぽい気がしたとゆーか、なんとゆーか・・・。
「この花は『サクラソウ』と言うんですよ」
おにーさんが優しく教えてくれた。
「誰かにあげるの?彼女とか?」
今考えると、初対面の人に根掘り葉掘り聞いてるボク。
おにーさんも、初対面の人になんでそんな教えてくれてたんだろ?
「いいえ。女性ではありますが、初対面です」
「え?」
ボクはなんだか頭が変になってきた。
でも、それはおにーさんのたった一言で解決する。
「会う事がすでにわかっていますしね。
レディーに花を差し上げるのは当然だと思っていますから」
「へぇー・・・感心だなぁ」
どーでもいーんだけど、カーくんが横でぴょこぴょこ踊ってたのをなんでか覚えてる。
「だったら、なんでサクラソウなの?」
「その方と同じ名前なんですよ」
「そうなんだ・・・」
ちょっと会話が止まる。
「あ、そーだ。
ボクもサクラソウ集め手伝ってあげよーか?どーせ、暇だし」
驚いたような顔でおにーさんがこっちを見た。
でも、ふっと優しく笑った。
「ありがとうございます」
・・・。
うっわーっ、カッコいーっ!
サタンがこんな表情で『私の后になるつもりはないか?』なぁんて言われたら結婚しちゃうかもなぁ?
って思っちゃったボクでした。てへ。
んじゃ。
「カーくん。この花見つけたら持って来てね」
「ぐっ!」
カーくんはマッハ350キロ(もちろん嘘だけどさ)で走ってった。
「食べちゃダメだよーっ!」
「ぐーーーっ!」
よしよし、いーお返事。・・・本当に食べないかどーかは別として。
「そういえば・・・あの生物は『カーバンクル』ですか?」
男の人が聞いた。
「そうだよ? ・・・よく知ってるね」
「・・・何匹もいるものなのですか?」
「え? うーん・・・少なくともボクはあの子以外見たことないなぁ」
答えつつ、ボクはあちこちにマッハ350キロ(当然嘘だよ)で眼を走らせた。
「あっ!ここいっぱいサクラソウ咲いてるよ!ほらほらぁっ!」
サクラソウの花束を抱えながら、おにーさんがいった。
「ありがとうございます。おかげでこんなにはやく集まりました」
そーいって、深々とお辞儀。
シェゾとかもあの顔でこんな性格だったらいーのに。
・・・いや、今からこんな性格になったら気味悪いだけだけどさ・・・。
「ううん、ボクはそんなに手伝えなかったし、逆に迷惑かけちゃったし・・・」
これは、カーくんのことを指している。
やっぱりというか当然というかわかりきってた事というか。
・・・つまり、食べちゃったのだ。サクラソウを大量に。
は、ははは・・・
それを止めるのに精一杯で、そんなに手伝えなかったボクでした。チャンチャン。
「お礼も出来ませんが・・・花がしおれるといけないので、これで。」
そういって、おにーさんは魔族特有の翼を広げる。
うわーっ、いい具合の逆光がかっこいーっ!
少し浮いたおにーさんに、ボクは言う。
「また会おうねっ!」
小さく手を振る。
それを見たおにーさんが、フワッともう一段階ほど浮いて。
花束から何本かのサクラソウをボクの髪にそっとさした。
「また、会いましょう」
そういい残して、おにーさんは去って行った。
・・・ボッと顔が赤くなる。
うぅっわーーーっ!
かっこいーの一言じゃ足りない。
あと『超』と『ド』と『めちゃくちゃ』と『ミラクル』と『ぶち』がつくよ!
深呼吸何回か。すーはーすーはーすーはー。
でも、無意識になんかこんなことを言ってしまった。
「今度会うときは、サクラソウさんとも会えるといいな・・・」
「ぐー。」
そんなボクにカーくんの一声。
訳。・・・『あの人、誰?』
「・・・あああああっ!! 名前聞くの忘れたーっ!」
・・・本当にあの人にまた会えたかは、ボクはまだ知らない。