今日は、魔導幼稚園の卒園試験。

くじ引きで試験の内容を決めるという、少し変わった方法を取るのです。

アルルは、みんなと一緒にくじ引きの列の中にいました。

そして、アルルの番がやってきました。

(簡単なのになりますよーに・・・

 卒園できますよーに・・・)

・・・カサッ・・・

一番に触れたくじを取りました。

(簡単なのですよーに・・・

 卒園で来ますよーに・・・)

そんなことを強く思いながら、カードを開きました。

「えっと・・・」

『まぼろしのくにの、せんだいじょおうにあいなさい』

と、いうカードでした。

(幻の国?幻ってあるかどーかわかんないことじゃないの?)

・・・と、いきなり地面がぐらぐらと揺れました。

目の前も真っ暗になっていきます。

そして、足元が解けていくようになくなって・・・

「わーっ!!」

アルルは、真っ暗な世界へ落ちていきました。

 

気がつくと、アルルは霧の中にいました。

「ここが『幻の国』なの?」

でも、この霧は少し変です。

普通、霧は自分より遠い場所だけが白くなるるはずです。

この霧は、アルルのすぐ周りも真っ白。

そのうえに、アルルが手を伸ばすと、触ることが出来ました。

「もしかして・・・」

この霧はアルルを囲むように浮いています。

「閉じ込められちゃった!?」

ごんごん。

霧は壁のように硬くて、通り抜けることができません。

完全に壁でした。

「そうだ、魔法でなんとかなるかも・・・

アイスストーム!」

ヒュゴォォオッ!

氷の竜巻は霧の壁に当たってすぐに壊れてしまいました。

ごんごん。

氷の嵐が当たったところは、壁のままです。

「じゃあ次は・・・」

『お待ちなさい』

「え!?」

突然、頭の中に声が響きました。

『後ろを向いて、そのまま進んでください』

「う、うん」

とりあえず、アルルはその声のとおりに進みました。

『そこから右です』

『左ですよ』

こんなことがしばらく続いた後。

『右です』

「うん・・・あっ!」

そこにあったのは大きなお城。

『時間の神殿です。どうぞ』

「うん、ありがとう!」

アルルは、そのお城のような神殿に向かって走っていきました。

その声が、一体誰のものだったかを疑問に思うこともなく。

 

ギィ・・・

音を立てて大きなドアが開きました。

「わぁー・・・」

とてもきれいなところです。

この大きな部屋は全部クリーム色。

クリーム色じゃないのは、真っ白の細い階段と、金色の大きなふりこ。

「ここって、大きなふりこ時計の中なのかな?ふりこは動いてないけど」

階段は、どちらかと言うと非常階段のようで、くるくると螺旋をかくように真上に向かっています。

その階段の真上は、二階につながっていますが、一階と同じ部屋のようです。

二階は、どちらかというと一階の部屋の天井を思いっきり高くして、

一階の途中に板をはさんだような感じです。

柱は壁と階段しかありません。

また、ふりこはその板を突き抜けて二階の天井に刺さっています。

その二階の板の下は入り口から見て左に赤いドアが一つ。

「あの扉に入ればいいのかな?」

と、思って入り口の大きなドアから離れました。すると・・・

ギィィ・・・

ドアは勝手に閉まりました。

「え?」

よく見れば、ドアには取っ手がありません。

それに入るときはドアを押して入りました。

近寄ってみると、取っ手が無理矢理取られた後があります。

押しても開きません。

引くことも出来ません。

きれいな緑のドアは、もうドアではなく壁になってしまいました。

「仕方ないや。ここから出るのも試験かもしれないし。」

とりあえずアルルは赤いドアに向かって走りました。

 

クリーム色の大きな部屋に足音が跳ね返り、また跳ね返り・・・と

どんどん足音が増えていきます。

アルルが赤いドアの前に立ったときはまだ、

別のアルルがどこかで走り回っているようでした。

赤いドアはほとんど光が当たらない場所にあるので、少し暗い感じがします。

でも、きれいな赤色はそれに負けずに光っているようでした。

その感じは、あの入り口の緑のドアとそっくりでした。

アルルはこのドアにまた取っ手が無いことに気づきました。

このドアには無理矢理取られた後は無いのですが。

「これも押すのかな?」

と思って押してみましたが、赤いドアは開きません。

やっぱり引くことは出来ません。

「残りは階段だけかぁ・・・」

そう思って赤いドアに背を向けました。

すぐそこに金色のふりこがあります。とはいっても、手が届くほどではありませんが。

その金色のふりこの横に階段があります。

真っ白の階段は段がきつそう。

しかも手すりは片方だけ。もう片方は何もありません。

その手すりも高すぎて、アルルには意味がありません。

段のほうは板が浮いているようになっていて、一つ一つの段をつないでいるのは手すりだけ。

(キレイなデザインだけど、どうやってバランスをとってるのかなぁ?

 ボクがのったらすぐに落ちてもおかしくないし・・・)

こわごわアルルは一段目に左足を乗せました。二段目に右足。

「落ちないようになってるのかなぁ」

そんなことを言いながら三段目に左足。四段目に右足。

「わっ・・・」

滑って足が少し前へ。手すりにしがみついたのでどうにかなりました。

「このへんならまだ大丈夫だけど、真ん中とかで落ちたら怪我じゃすまないかも・・・」

と言いつつ、一歩前へ。一歩前へ。

「はぁーっ・・・」

アルルはなんとか二階へつきました。

でも、汗で体はびしょびしょだし、体の中はそれに反して熱い。

友達とかけっこするのより、怖いし第一疲れる。

アルルも、こんなことはしたことがありませんでした。

「あれ?」

アルルの目の前にはドアがありました。

けど、アルルは別の方向に目を向けています。

アルルから見てちょうど右方向に、光る男の人の像がありました。

近づいてみると、光っているのは像ではなく、像の持っているハープでした。

持ち手は金色で、そこに黒い宝玉がはまっていました。

ついさっきまでの疲れを無視してアルルはかけよりました。

「ここに何か書いてあるよ?」

その像の下の台座に文字を見つけたアルルは、かがんで文字を読もうとしました。

「えっと・・・」

文字をアルルの指がおさえると・・・ カチャリ。

「え?」

ボタンがあったようです。

像がチャリチャリというような音を立てて・・・

像の手が動き、ハープを奏でました。

ハープからは音が零れ落ちるように聞こえます。

「わぁー・・・☆」

アルルは黙って演奏を聴いていました。

 

 

キィーッ!!

その演奏は、とても中途半端に、いきなり終わりました。

「わぁっ!?」

いままでのキレイな音楽を全て台無しにするような音に、アルルは思わず声をあげました。

パン!パン!

そんな音が、どんどん壁に跳ね返っていきます。

ハープが奏でられていたときは、まるで遠慮していたかのように

音が響くことはなかったのに、今はそのぶん余計に響いてるかのよう。

「う・・・」

その音に耳をふさぎながら、音のしている像の方向を向きました。

ハープの弦が次々とはじけて切れています。

ちょうど最後の弦がはじけました。

でも音はまだ響いています。

その音が小さくなってやっと聞こえなくなりました。

「でも、なんで急に弦が切れたんだろう?」

まだ耳をふさぎながら、アルルがそういうと、

まるでその言葉がきっかけだったように、金色の持ち手が黒く光りました。

それはまたすぐに金色に戻りましたが・・・

ザザッ・・・

持ち手がどんどん砂になっていきます。

「え、え!?」

持ち手は完全に金色の砂になりました。

何故かふわふわと浮いていた黒い宝玉から色がシュッと飛び出し、

透明になった宝玉が金色の砂の上に落ちました。

黒い色のもやは、少しの間像の周りを回ったかと思うと、空気に溶けてしまいました。

「これ・・・?」

アルルが片手で宝玉を拾って、どうなっているのかのぞいたり、回したりといろいろしていると、

ガンッ!

いきなり像の台座が壊れ、金色の砂と灰色の破片が混ざりました。

台座が壊れたのに、男の人の像はそのまま立っています。

まるで、ちゃんと自分でバランスを取ったように・・・

チャリチャリチャリチャリ・・・

そんな音を立てた像は、手をアルルに向かって振り下ろしました。

「うわぁ!」

その手をなんとかかわすと、アルルは走りました。

モンスターだったようです。

「もしかしてこれ取ったから怒ってるの!?」

アルルはその像に向かって宝玉をころがしました。

宝玉は像の足元で止まりましたが、取ろうとはしません。

「じゃあ、絶対に倒さなきゃいけないモンスター・・・」

確かに、先生からそういう説明を少し聞きました。

キィ―― キィ――

像は走ろうとはしません。

どうやら、壁際に追い込むつもりのようです。

「ファイヤーッ!」

ボォッ!

火の玉は像に当たりましたが、像の色が少し黒くなっただけ。

「アイスストーム!」

ひゅ・・・キィィィイン!

氷の嵐は、像の足元にあたり、像の足を凍らせました。

とりあえず、像を動きをとめることが出来ました。

しかし、それだけ。

まだ男の人の像はアルルに向かうべく腕を振り回しています・・・。

 

「ふぅ・・・」

ファイヤーも効かないし、アイスストームも効きそうにありません。

氷もいつかは溶けてしまいます。

「でも、像を壊せるような魔法は知らないし・・・

あれ?」

像があった場所の向こうに、ドアがあります。

「押すのかな?」

あきません。

「ひくのかな?」

取っ手がありません。

「だったらどうすれば・・・」

そう言いつつ、アルルはドアを押しています。

やっぱりあきません。

「わ!?」

ドアを押している手がいきなり前へ行きました。

ドアはあいていません。

「この穴、何だろう?」

今アルルの手がある場所に、手のひらより少し小さい丸い穴があいています。

「何かはめるのかな・・・あ!」

像の近くに、ちょうど穴にぴったりはまりそうな宝玉が落ちています。

どうやら氷づけにはなってないみたいです。

でも、その像の近くにある宝玉をとるには当然その像の近くにことになります。

像は足を凍らせてあるだけ。

こっちにはこれませんが、近づいたら攻撃してくるでしょう。

「えーっと、えーっと・・・あ、そうだ!」

アルルは像が攻撃できる距離のギリギリまでちかづきました。

「アイスストームッ!」

氷の嵐は、ちょうど像の両腕を捕えて、

ピシ・・・ピシッ・・・

両腕も氷づけになりました。

「これでいいよね」

そういいつつ宝玉を取り・・・

「冷たっ!」

すぐ離しました。

氷のそばにあったので冷えてしまったようです。

とりあえず服の袖を通してつかむことにしました。

そして宝玉を穴にはめると・・・

チャリチャリチャリ・・・

像の時と同じ音がします。

「当たり・・・かな?」

アルルは思わずそう言いました。

 

次の話へ 記念館へ

[PR]動画