キィ。

そんな音を立ててドアは開きました。

「これ・・・はめとかないとダメかな」

ぴったりはまっていた宝玉をなんとか外しても、――どっちかというと『引っこ抜く』や『剥がし取る』とかのほうが近い――

ドアが閉まるようなことはありませんでした。

そのかわり、なかなか外れなかった宝玉をやっと取った

アルルはバランスを崩して膝をついてしまいましたが。

「わぁ・・・」

ドアの向こうは青い色の廊下でした。

キレイな青いレンガが敷き詰められたようなかんじの廊下。

変な感じは全く無くて、逆に神々しいような雰囲気まであります。

右に一つ、左に一つ、真ん中に一つドアがあります。

「とりあえず左かな?」

左のドアを開けました。ドアの向こうは青色ではなく、普通の部屋。

いや・・・普通の部屋というよりは・・・

「王女様の部屋・・・?」

絵本の中に出てくるような、立派な王女様の部屋。

全体的にピンクの色を使っていますが、派手な感じはしません。

それどころか落ち着いた感じすらします。

「この部屋、なんか意味あるのかなぁ?」

ここは、試験のために作られた部屋です。

もしかしたら、ここにヒントか何かがあるのかもしれません。

(王女様・・・ごめんなさい!)

なんとなくそう思いながら、アルルはここでヒントを探すことにしました。分かりやすく言えば『あさる』(爆)

 

(・・・ない。)

「どこにもヒントなんてないなぁ・・・」

アルルは唯一まだ見ていないクローゼットを開けました。

「――っ!」

どさどさどさ・・・

クローゼットに入っていたドレスが落ちてきました。

「ここの王女様って・・・一体どんな人だったの?」

ドレスの山からかろうじて顔を出してアルルはつぶやきました。

「はやく戻そうっと」

アルルは大きなドレスをクローゼットに戻し始めました。

「・・・でも。結局何にも無かったなあ・・・」

アルルは、気づいていませんでした。

ドレスと一緒に落ちてきたとても小さな本がかばんの中に入ったことを・・・

 

アルルはドアを見て、気づきました。

「宝玉の穴だ・・・またはめてみよっか」

そういいながら、アルルはかばんから色の抜けてしまった宝玉を取り出しました。

透明な宝玉をはめると、またチャリチャリという音がします。

グラッ・・・

床が大きく揺れました。

「何・・・?」

かと思うと、いきなりアルルの身体が真上に跳ね上げられました。

「わーっ!!」

というより、部屋全体が落ちているようです。

家具が浮いているのが見えます。

ガシャンッ!

その音が合図になったかのように、グラリと部屋がゆれて、止まったのが分かりました。

部屋が落ちるのが止まったと言うことは、アルルが浮くのも止まるので・・・

当然今度はアルルが落ち始めます。

「わーっ!!」

ボフンッ!

なんとかベットに着陸。

「どうなったの・・・?」

とりあえずドアを開けてみることに。

キィ・・・

「あれ?」

そこは青い廊下ではなく、真っ白い部屋でした。

 

その真っ白い部屋は、

真ん中のちっちゃな金のふりこ以外は何一つ無い部屋です。

明かりすらありません。

他の場所の様に、シャンデリアがあったり、太陽の光を取り入れることをしていないのです。

それでも暗くないのは、壁がかすかに光っているからでしょう。

(確かに、こんな真っ白い部屋に光があったらまぶしいだろうね)

そんなことを思いながらアルルはふりこを見ていました。

「ふりこ時計って、何個もふりこがあるものなのかなぁ?」

・・・ここは、大きなふりこ時計の中ではなく『時間の神殿』なのですが。

そう言いつつ、アルルはふりこに触ってみました。

チャリッと音がして、ふりこはゆらゆらとゆれました。

「何か意味があるのかな?」

ふりこを思いっきり押すと、チャリチャリと音がして、ふりこがゆれます。

「もしかしたら、あの像を倒せる何かがあるかも・・・!」

そう言っている間にも、ふりこがゆれ、その分チャリチャリチャリと音が。

チャリチャリチャリッ――

唐突に、音が消えました。でも、ふりこはゆれているのですが。

「え?――!?」

ガッコンッ!

音が消えたのを変に思った言葉を微妙に修正しつつ、

アルルは横に体をすばやく移動させました。

アルルがついさっきまでいた場所に、立派な宝箱が落ちてきていました。

「いくら立派な宝箱でも、上に降ってこられちゃたまんないよ」

アルルは宝箱をじっと見つめながらそう呟きました。

 

(鍵穴が無いから、多分鍵はかかってないかな?)

そう思い、宝箱に手をかけましたが、あけようとするのはやめました。

箱の横に、『ほのおのまほうであきます』と書いたプレートがくっついてからです。

そうと分かればやることはひとつ。

「ファイヤー!!」

前に突き出したアルルの手から生み出た炎の玉は、真っ白い壁を真っ赤に変えていき、

アルルの手や顔、服までも真っ赤に変えていきました。

そうしてできた炎は、勢いよく宝箱に向かって体当たり!ここで「え?」と思った人は普通でしょう。

炎は宝箱に向かっていったときと同じく、勢いよく燃えていました。

が・・・その勢いもだんだんと弱っていき・・・

それに連れて、夕日よりも真っ赤に染まっていた壁やアルルの顔や服も、

どんどん元の色を取り戻していき・・・

やがて炎は消えてしまいました。

「開いたのかなぁ?」

アルルが宝箱に手をかけましたが、宝箱は口を閉じたままです。

「・・・あれ?」

動かしても開かない。がんばって持ち上げても開かない。

激しく揺さぶっても開かない。逆さにしてブンブン振っても開かない。

「どーして・・・?」

とりあえず、アルルは宝箱を逆さにしたまま床に置きました。

宝箱は転がってプレートのくっついた面をアルルに向けます。

そのプレートには、確かに『ほのおのまほうであきます』と、書かれています。

アルルはとりあえず宝箱を元の向きに戻しました。

「なんでだろ?」

『ほのおのまほうであきます』の、『ま』のへんをじーっと見ました。いや、本気で悩んでいるその顔を見ると、にらみつけている感じ。

次に、『ほ』の字へ目を移し、すぐに『の』の字へ映し、『お』の字へ・・・と、

どんどん目を移していきました。

でも、やっぱり書いてある文字は『ほのおのまほうであきます』。

「・・・ファイヤーって炎の魔法じゃないのかな。

そんなことは無いと思うんだけど。」

もう一回宝箱をあけようとしました。

・・・あきません。

「おかしいなー・・・」

アルルはまたじーっとプレートを読みました。

・・・というよりは、ぼーっと見ました。

「あれ?」

ぼーっと見ているうちに『ほのおのまほうであきます』の下に文字を発見。

「えっと、『ただし、ふつうのファイヤーのばあいはあきません』・・・!?」

普通のファイヤーであかないという事は、

アルルには開けられないことになってしまいます。

アルルはファイヤー以外の炎の魔法を知らないし、

ファイヤーをパワーアップする魔法やアイテムも持っていません。

「そんなぁ・・・」

アルルはその場にふらふらと膝をつきました。

でも、それも少しの間だけ。

「こんなことでおちこんじゃうなんて、ボクらしくないや・・・!」

そういって、宝箱のほかは何にも無い部屋を出て、

アルルはお姫様の部屋へ入っていきました。

 

ガッタン!

「うわっと!」

そのとたんにアルルを床に押し付けていた重い空気が消えました。

「こ、ここのお姫様・・・いっつもこんなことしてるの?」

宝玉をドアの穴にはめると、さっきは部屋が落ちていきましたが、

今度は部屋があがっていったのです。

「こぉんな危険なエレベーターに乗って・・・

せめて家具を固定するとかどうとかしてよね」

まさに、アルルの表現はぴったり。

この部屋は、大きなエレベーターと変わらないのです。魔導世界にエレベーターがあるかどうかは別として。

「まったくぅ・・・」

そんなことを言いながらアルルがドアを開けると、

なんだか暗い。そして・・・無表情な男の人の顔がとっても怖い!

「う、うわぁぁあ――!!」

叫びながらアルルは何とか振り下ろされた腕をかわしました。

男の人の像を包んだ氷も、とっくに溶けていたのです。

男の人の像の腕があたった場所を見て、アルルはその氷が溶けた水が背中に入れられた感じがしました。

像の腕が叩いたのは、アルルが今も背中合わせにしてるドア。

ドアの、アルルの顔のすぐ横の部分。

髪が何本か巻き込まれていて、あとちょっとで耳にあたりそうです。

不思議なことに、ドアがへこんだり、傷がついた様子はありません。

それよりも、かわしたけれどとても危なかったアルルの心臓の方が、

ばっくんばっくんとへこんだりふくらんだりを続けています。

そんなアルルを見てすらいないように無表情な像は、ゆっくりと腕を上に振りかぶりました。

(魔法じゃ勝てない! ・・・なら!)

「えいっ!!」

そういいながらアルルは思いっきり像に体当たり!

像は倒れはしませんでしたが、大きくバランスを崩しています。

アルルはそれを見もせず走り出しました。

像がバランスを取ろうとする間に、アルルは最初に像があった場所へ。

そして振り返り、魔法を唱えました。

「サンダーっ!!!」

チュンチュンチュンッ!

バチィッ!

かみなりは男の人の像に命中しました。

でも、男の人の像はぜんっぜん平気。やっぱり魔法は聞かないようです。

しかも、魔法を唱えてる間に像はどんどん迫ってきて・・・

「うわっ!」

アルルにパンチ!

そのパンチはアルルの足元に当たって・・・

床は無残にボッカリへこんでしまいました。

像がゆっくりと手を振り上げる間に、アルルは先へダッシュ。

像は手を振り上げるのをやめ、追ってきます。

それをわざわざ見るかのように、アルルは振り向きました。

バックの大きな金色のふりこが、きらきらと光っています。

(・・・あと、少し・・・)

アルルと像の間はだんだん縮んでいきます。

像の手が伸び、アルルにあと数秒で触れるというとき。

「え、えぇーいっ!」

アルルはふりこに向かって大ジャンプ!

ふりこにしがみついたアルルを、像が追います。

「えぃっ!」

アルルはもう一度、反対側の床にジャンプ!

ただただアルルを殴りつけようとしていた像は、ターゲットが

急に消えたことによって大きくバランスを崩し・・・

ふりこがゆれるためにあった穴から、落ちていきました。

「わっとっと・・・」

なんとか床に降り立ったアルルは、

バランスを崩して自分も落ちてしまいそうになりました。

やっとバランスが取れたか、取れないか。

とても大きな音がしました。

ガリャンというようなガラスが割れる音のような、

ドカンッといった爆発音であるような・・・とにかく、嫌な音。

そんな音が、まだ壁に跳ね返っている中、

おそるおそるアルルは下をのぞいてみました。

そこには、像の姿はなく、ただ『何かの破片』が落ちているだけでした。

 

アルルは、しばらくその破片を見ていましたが。

やがて、くるりと背を向けました。

もう、ここにいても意味がありません。

いっつものように、『ばたんきゅー』ではなくて。

本気でモンスターを倒してしまった事。

(試験用に作られたモンスターだろうけど・・・やっぱり・・・)

すっごく後悔しているけれど、それを今更思っても仕方がありません。

そんな中。

『待って・・・ください・・・』

「うわぁっ!?」

背後から、なんだかボーっとしてるような、ボーっとしてないような声。

「うわぁっっ!?」

後ろを見て、さらにびっくり。

「ゆ、ゆーれい!?」

そこにいるのは、足が無くって、透けてて、なんとなく『生きている』って感じがしなくって。

おばあちゃんに読んでもらった絵本とか、

お父さんの話してくれた冒険のお話に出てくる『ユーレイ』と全く同じ。

見た目はどの話とも違う・・・まるで王子様のようなのですが。

その『ユーレイ』は、そんなアルルを無視して続けます。

『私は・・・この国の・・・王・・・で・・・す・・・』

「え!?で、でもっ、ここにはだぁーれもいなかったよ!?」

少なくとも、アルルの見たところは。

王子様のような王様は続けます。

『この国は・・・あるとき・・・魔女に・・・おそわれ・・・

人は・・・みな・・・消されてしまいました・・・』

「えぇっ!?」

ユーレイ・・・もといこの国の王様はアルルが口を開くたびに驚いていることなど気にもとめません。

それとも、気がついていないのでしょうか。

『そして・・・私は意志に・・・変えられ・・・女王は・・・

どこかに・・・つかまって・・・いるはずです・・・』

「えぇ!?女王様が!?」

そういって、アルルは、ポケットに手を入れました。

(た、たしか、目的は女王様に会う事だよね!?)

しかし・・・・

「あれっ!?」

ポケットに入れたはずのカードがありません。

一応かばんも見ましたが、

見つかったのはお母さんの作ったカレーライス、竜の角、竜の尻尾などが入っているだけ。

入れた覚えの無い石も入っていましたが。

『私は・・・もう・・・消え・・て・・・しまいます・・・』

「え!?もう!?」

『だから・・・せめて・・・女王を・・・助け・・て・・・ください・・・!』

そんなことを言われて断れるアルルではありません。

「うんっ!わかった!」

アルルは、いつものように元気よく答えました。

それを聞いて、今まで少し冷たくて少し硬い、

一言で言えば『生気が無くて暗い』感じだった王様の表情が、

急に少し暖かくて少しやわらかい、

一言で言えば『生気があって明るい』感じ・・・つまり、前の表情と対になりました。

微笑を浮かべた、その王は。

『私にも・・・少し・・・魔力が・・・あり・・・ます・・・

この魔力・・・貴方に・・差し上げます・・・

貴方が・・・女王・・・を助けて・・・くれることを・・・信じて・・・・』

フワァ・・・ッ・・・・

アルルの周りが、優しい光に包まれました。

光と言うよりは。

春の花畑の花びらが、アルルの周りを踊っているようで。

花びらの数はどんどん減っていき、やがて完全に消えたときには、

この『幻の国』の王様は、いなくなっていたのでした。

 

 

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