ここは、あの青い廊下の真ん中の部屋。

白と灰色の中心の色のレンガで作ってある小さな小部屋。

一歩入っただけで、その部屋はおしまいで、あの穴があるドア。

「やっぱり、宝玉をはめるんだろうね」

そういいつつ、アルルは宝玉をはめます。

チャリチャリチャリチャリ。

「あたりだね」

そういいつつ、アルルは後ろに下がります。

それとあわせるように、ドアはこっちにむかって開いてきました。

その向こうから「きゃーっ!!」と声が聞こえてきます。

「え?」

そこには、怯えている一人の女の子がいました。

その女の子は、足の変わりにお魚さんの尻尾ついていて、水を入れたたらいに入っています。

うろこさかなびとと言うモンスターです。

その女の子は、怯えながら口を開きました。

「あなた・・・私をいじめに来たのねっ!?」

「えぇ!?」

アルルは、思わず後ずさり。そして、ぐるりと首を回転させて見ました。

アルルとうろこさかなびとさん以外は、誰もいません。

・・・あの言葉は、アルルに向けられているようです。

「ボク、そんなことしないよ!」

「そうよそうよそうに決まってるわ私が人魚だからいじめに来たのね

ひどいわひどいわ・・・」

アルルが言った言葉を無視するように、うろこさかなびとさんは続けます。

涙目でのうろこさかなびとさんのお話はいつまでたっても終わりそうにありません。

「・・・ボク、先に行かなきゃいけないから・・・バイバイ!」

その言葉にうろこさかなびとさんはビクリと体を震わせます。

「さ、先に行くって事は・・・あなた、私をいじめた挙句

宝箱まで奪おうとしているのね!?」

「・・・ほへ?」

どんどん思い込みが激しくなっていくうろこさかなびとさんに、

アルルは油を注いでしまったようです。

・・・・・・それも大量に。

「ダメよダメよこの宝箱は私の一番目の友達に大切にしなさいって

言われてもらったんだからそれなのに・・・」

「一番目の友達?」

「そうよたった一人の友達よそれ以外の人はみんな私をいじめるんだから

ああなんて可愛そうな私なの・・・・・・」

その言葉を聞いて、アルルは大きく息を吸い込みました。

「そんなの嘘だよっ!僕は君をいじめたりしないよっ!!」

その言葉にうろこさかなびとさんはまたビクリと体を震わせます。

二人が黙っていたのは、ほんの少しの間だけ。

「・・・本当に・・・?」

アルルは黙ったまま、こっくりとうなずきました。

また・・・少しの間。

「なら・・・」

うろこさかなびとさんは、見開いた目にいっぱい涙をためています。

「私の・・・お友達になってくれますか・・・?」

もちろん・・・アルルの返事は、ただ一つだけ。

「それくらい、お安いごようだよっ!!」

うろこさかなびとさんはそれに安心したのか、

ついさっきの王様のユーレイみたいに、にっこりと笑いました。

「だったら・・・これとこれに、サインしてくれる?」

そういって、うろこさかなびとの出したものの片方には、

『ともだちのあかし・なかよしカード  00001』と、

片方には『なかよしカード会員名簿』と書かれていました。

(な・・・なんで友達になるのにサインがいるんだろう・・・

それに、一番目の友達がいるはずなのになんで一番最初の番号なの?)

そう思いつつ、

「アルル・ナジャ、っと・・・」

アルルはサインしました。

「・・・指きり、してくれる?」

「うんっ!」

うろこさかなびとは、アルルの小指を絡めとると、

「ゆっびきぃりげんまん、うっそついたら、かーくばーくだんのぉーます♪

ゆっびきったっ!」

アルルには『かくばくだん』がよくわからないのですが、『ばくだん』が

怖いものと言うのはよく知っています。

・・・さっきまで笑っていた顔が、思いっきり引きつっていたのでした。

これと似たような状況がまたあるとは、またあるとは知らず。真・魔導物語B参照。

 

「そうだ・・・この宝箱、アルルさんに差し上げます」

「えぇっ!?」

アルルの引きつっていた顔が一気にびっくり顏に変わりました。

「で、でもでも、それってとぉーっても、大切なものなんじゃ・・・」

「大切にしてっていわれたし・・・

だから、はじめての『大切な』お友達のアルルちゃんにあげる!

アルルちゃんなら大切にしてくれるよね?」

「・・・うんっ!」

アルルは座って、宝箱に手をかけました。

宝箱は、音も無く開き・・・

「本・・・?」

よく見ると、それはお父さんが持っていた、魔導書にとってもよく似ています。

・・・というか、魔導書そのもの。

でも、お父さんの持ってためちゃくちゃに分厚い魔導書に比べれば、絵本のようなもの。

それでも、アルルにとっては十分量があるのですが。

アルルは、早速魔導書を開きました。

「えーっと・・・ダイ・・・ア・・・キュー・・・ト・・・

ダイアキュート?」

ぱぁああっ・・・

オレンジ色の光がアルルを包み込み、消えました。

それと同時に魔導書は、一ページしか読んでないのに

砂よりももっと細かく細かくなっていき、見えなくなりました。

「え?え?」

アルルが立つと、青色の光がアルルの動きを追うようにフワリと舞い、

衣のようにアルルを包み、そしてまた消えました。

アルルが腕を動かすと、

腕の先から青い光が放たれ、舞い、またアルルの元に戻って消えていきます。

「うわあぁっ・・・」

アルルが体を動かすと、青い光がアルルを包み込み、消えていきます、

その青い光はヒーリングとは違った意味でとても心地よく、

なんだか、やる気とか勇気みたいなものがわいてくるような気がします。

それにほんの少しだけ、体が軽くなった気もします。

「うろこさかなびとさん、ありがとう!」

そういったものの、うろこさかなびとさんはもうそこにはいませんでした。

そして、うろこさかなびとさんのいたところには、また宝箱。

あけてみると、それは空っぽ。

「えぇー!?そんなぁーっ・・・ん?」

アルルが一人文句を言い始めようとすると、宝箱の中に張り付いたプレートを発見。

そこには、

『ふりこはゆれる』

と、立った一言だけ。

「ふりこ・・・?」

ボーっとしながら、頭をフル回転させていきます。――といってもフル回転には程遠い――

(確か、今までにもふりこは何個かあったよねぇ・・・

でも、どれもゆれてなんかなかったけどなぁ・・・?

ボクが揺らしたのはあったけど・・・ ! )

「あ、そーだ!

あの宝箱、ダイアキュートかけた今なら開けれるかも!」

どさくさにまぎれて宝箱のことを思い出したアルルは、

またあの巨大危険エレベーターに乗る事に気づき少しぐったりするのでした。

 

真っ白く染め上げたような部屋。

宝箱は変わらずそこにあり、あけてくれるひとを待っているようです。

その宝箱に向かって、アルルは思いっきり

「ファイヤーッ!」

と呪文を唱えました。

炎はまた壁やアルルを、どんどんと染め上げていきます。

が、すぐに壁やアルルを元の色が染め上げました。

それを確認して、アルルは宝箱に手をかけます。

「あり?」

・・・開かない。

・・・・・・開かない。

転がしても開かない。ごんごん叩いても開かない。

じーっと見つめても当然開かない。回していろんな所から見ても開かない。

「どーしてー?」

そういったアルルは、ふと気づきました。

アルルの身体を包んでいた青い光のドレスは、今はもう姿を見せません。

ダイアキュートの効果が消えたのです。

「なら、もう一度・・・ダイアキュート!」

・・・しーん。

「ダイアキュート!」

・・・しーん。

アルルは・・・大事なことに気づきました。

「・・・魔導力、なぁい・・・」

初級魔導を多く唱えたし、ダイアキュートまで唱えたので、

はっきり言って魔導力は空っぽ。

アルルは、かばんの中身を見て、魔導酒だけを取り出しました。

そして、黙って飲み始めました。これを見る限り、魔導世界には二十歳まで飲酒禁止ってのはないよーだ。

(そういえば、前にお父さんに

『なんでお酒で魔導力がいっぱいになるの』

って聞いたっけ・・・

・・・・・・なんでだっけ?)

それは思い出せませんでしたが、とりあえず魔導力も回復したので、

呪文を唱えました。

「ダイアキュート!」

オレンジ色の光がアルルを包み、アルルの身体からはまた青い光があふれ出しました。

「ファイヤーッ!」

ごおぉっ!

青い光を火が取り込み、強力な炎になりました。

その炎は、宝箱にまとわりつき。

カチャ。

炎が消えるのと同時に、宝箱は自動的に開きました。

「あ!」

中に入っていたのは、あの卒園試験の問題のカード。

そこに書いてあったのは、

『まぼろしのくにのせんだいじょおうにあいなさい』

「せんだい・・・?」

アルルは、自分が勘違いをしていたことに気づきました。

会わなくてはいけないのは、王女様ではなくて先代女王様なのです。

「ん・・・?」

それと、宝箱にはもう一つ巻物が。

「えっと・・・

 『ふりこは本来ゆれるもの。

 ゆれることにより時を刻む。

 時が止まるときふりこも止まる。

 ふりこが動くとき時も動き出す。』

 『時により動くもの、

 時が無くては動かぬもの、

 時が止まりし

 《時間の国》

 幻と化す

 《時間の国》

 魔の使いの先代女王により

 ふりこが止まる

 時の女神も

 ほほえまず

 まぼろしの国の者

 眠りにつく』

 『《時間の国》の神殿のふりこの前で

 この呪文を唱えよ

 ふりこは動き出すだろう

 〜時の戒めを解きし者、

  時に戒めをかけし者、

  ふりこは動く〜』

・・・〜〜?」

アルルにはその意味がよく分かりませんでした。わかったことと言えば、

「この呪文、

あの大きなふりこの前で言えばいいのかな?」

ということぐらいでした。

 

「『時の戒めを解きし者、

 時に戒めをかけし者、

 ふりこは動く』!!」

あの・・・大きなクリーム色の部屋の豪華な金色のふりこ・・・

そのふりこはアルルの呪文に反応して、

透き通った空と透き通った海の中間の色に光っています。

その青は、だんだんと海の色に近くなっていき、深い深い海の色に変わっていきました。

どんどんと深い青の光は暗く、暗く、

最後に、深い藍色と黒色の中間のような色に変わりました。

その光はふりこから抜け出し、まるで何かを包むように螺旋状に動きます。

その螺旋は、だんだんと固まって・・・人の形に代わりました。

その光が風にふき飛ばされるように消え、・・・

そこには大人の女の人が一人。

黒くて長い髪に、少し白い顔。

紫色か青色か、そんなのじゃないもっと深い色なのか・・・よくわかんない、

けれど紫や青のような深い目の色。

途中でジグザグと線が張られ、その上は真っ白、その下は真っ黒のローブ。

長い袖も同じ模様で、そこから見える肌色に白を混ぜたような色の細い手には、

白の持ち手に大きな赤い宝玉の杖。

その宝玉は万華鏡のようにきらめき、絶えず淡い光を放っています。

そんな女の人は・・・ゆっくりと、口を動かしました。

「よくぞ、私をここから出してくださいました・・・。」

「・・・だぁれ?」

アルルはその神秘的な・・・というよりは魔的な女の人に聞きました。

「私は、魔に閉じ込められてしまった時の女神です・・・」

「っ!?」

アルルはびっくり!

時の女神様は・・・びっくりしたアルルを見ていないのか、見えないのか、無視してるのか。

そんな感じで続けます。

「私を助けてくれたお礼に、先代王女様に

会わせて差し上げます・・・」

「えぇっ!?ホント!?」

またまたアルルはびっくり。

「本当ですとも・・・」

そう言う時の女神様を、アルルは見上げながら・・・

口を開きました。

「先代女王様に会うのが、ボクの卒園試験なんだ。

だから、それはがんばって自分でやってみるよ」

「そうですか・・・

なら、少しお手伝いを・・・」

ゆら・・・

アルルの目の前が少しゆがみました。

カチコチカチコチカチコチカチコチ・・・

時計の音が聞こえ、ふりこが大きく揺れます。

ゴーン・・・ ゴーン・・・

その重い音にあわせ、あの赤いドアが開きました。

そして、緑のドアの近くにアルルが気づいていなかったクリーム色のドアも開きました。

「では・・・」

「あっ!」

時の女神様は、アルルがお礼を言う前に消えてしまいました。

「・・・まぁいっか。」

そういって、アルルは赤いドアの中に入っていきました。

 

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